ゆたかとエグモント
デンマーク エグモント教員片岡豊によるWEB日記
2005/11
29
インクルージョンてなに? その4
「そんなに偉そうなこと言うなら自分でやりなさい!」。子供の頃に、そう叱られた記憶がある。母親にああしろ、こうしろって指図したからだろう。大人に向かって、子供が威張ってあれこれ指図するのはだめだ、という意味と、口だけでなく実際に自分でやってみなさい、という意味があるのだろう。こういう考え方は、職場で、そして日常の人とのお付き合いの中で、よく出会うのではないだろうか。大人と子供の関で、上司と部下の間で、そして同僚や友達同士の間でも。ここで、このような考え方は、日本型と言い切ってしまうのには躊躇があるけれど、でも日本では一般的な考え方のようだというのが僕の印象だ。
デンマークではどうかというと、子供は大人に対して「偉そう」に発言するし、してもよいとされている。同僚の間でも、「自分で提案したことは自分でやれ」という言い方はほぼ「禁句」に近い。両方とも、言論の自由を妨げることと同じと取られる。何も言うなと言っていることと同じだ、と逆に批判される。子供は、大人のようにいろいろ出来ないことがある。だからと言って、子供の意見は聞かなくてもよいということではない。まして押さえつけることは間違いだとされる。
この違いはどこから来るのだろうか。「日本型」の考え方を、もう一度振り返ってみよう。そこでは、何でも先頭に立って自分でやって、部下や子供を引っ張っていくのがよいことだという、ひとつのリーダーシップの考え方がある。「俺についてこい」の「ガッツ」型のリーダーシップだ。新興企業の若い経営者によくあるタイプだ。あるいは小規模の家族企業でも同じようなリーダーシップがよく見られる。伝統的な工芸家も、このタイプにはいる人が多いだろう。ここでは上下関係が厳しく守られている。トップが最も優秀で仕事が出来、そして権威者でもある。権威者の言うことは理屈なく従わなければならない。権威者の言うことに疑問を持っても、それを権威者に説明を乞うとか、問うことが許されない。
それに比較してデンマークの考え方は、とても「民主主義」的といえる。何を言ってもよい。上司や教員が指示をだすと、部下や生徒は納得がいかなければ説明を求める。子供も同じだ。親が子供に何かをしなさいと言っても、子供はまず、その理由を聞いてくる。親や上司が「偉そうに」指示したり、発言すると、反発される。「偉そうに」発言する人は、人格的に出来ていないためと思われてしまう。育児においても、そして職場においてもそうである。上手な育児教育や部下指導とは、動機付けにあると考えられている。例えば、ある課題があるとしよう。相手の言い分を聞き、相手に最もよい回答を見出すようにしむけるのが、よいリーダーだとされる。日本でも最近、コーチングというやり方が流行し始めていると聞いている。これと同じような考え方である。リーダーは相手より一歩下がった位置に自分をおくことになる。他方、子供や部下の立場や、同僚の間では、様子がちょっと異なる。ここでは、お互いに「対等」であることが強調される。そして話合いを通して、自分の見解・意見を相手に伝える。合意に達することよりは、話合いをすることが大切だとされる。まずは、自分の意見を言わさせてほしい。そういう姿勢にある。親や上司は常に、その要求にこたえなければならない。それが一般には出来ているのは、「対話」文化が日本よりずっと深く根付いているからだろう。
2−3日前に、エグモントの元の生徒をインタビューしたことに触れた。なぜ、彼らが、エグモントにもっと長く残らなかったのかという理由を知るためだ。彼らにインタビューして分かったことは、介助者とうまくいかなかったということだった。4人のうち3人が介助者とのトラブルが原因だと説明した。3人とも20才そこそこの若者だ。親元から離れてエグモントで生活を始めた。ホームシックもあるだろう。なれない日常生活リズムへの戸惑いもあったであろう。そういう新しい状況の中で、自分のヘルパー(正確にはパーソナルアシスタント)を採用し、一人の雇用主としての役目を果たさなければならない。相手の人格を踏みにじって、威張りまくれば、ヘルパーから嫌がれる。かと言って、何も言わなければ、逆にヘルパーが主導権を握ってしまう。ヘルパーが母親役を果たすようになってしまう。ヘルパーが知識が高いプロなら、なんとかその役をこなすことができるかもしれない。しかしエグモントのヘルパーは、大半、当事者と同じくらいの年齢だ。20歳から22歳くらいの若者だ。介助仕事も始めて。親元も離れて住むのも間もない。介助するものも、介助されるものも、自立生活に関しては経験の浅い新米なのだ。
25年前にデンマークで始まったパーソナルアシスタント制度(オーフスで始まったので、俗にオーフス制度とも呼ばれる)は、重度の障害者が自立生活する上で最善の支援制度と言える。しかし、それは多くの課題を含んでいる。日常生活で、そして社会生活において、身体の障害を補うために介助者を雇い、雇用主として、人に指示を与えるリーダーとしてどう振舞ったらよいのか。重度の障害者が、介助者に「偉そうに」あれこれ指示をする。自分では何もできないのに。そういう目で見る人はまだ多いのではないだろうか。 "
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インクルージョンてなに? その3
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